8.名前を呼んで

名前ってね。
嬉しいものです。呼ばれると。

人には名前がついています。
ペットにも名前がついています。

モノには名前はついていません。
でも。

パソコンに名前をつけたり。
縫いぐるみに名前をつけたり。

名前って、大切なものにつけられるのです。

私のパソコンは「アンソニー三世」
私にとっては大切なものだから。

でも、他の人から見たら?
ただの……「パソコン」

それ以上でも、それ以下でも無い。

人の名前も同じこと。

その人にとって大切な人なら、名前で呼びます。
どうでもいい人なら……「ちょっと、そこのおねえちゃん」

派遣のバイトをしていた時。
一つのバイトに入るのは長くても数日。
大体が日替わり。

専属のパートさんも、毎日変わる派遣のアルバイターの名前なんて覚えていられません。
だから、呼ばれるときは「派遣さん」

仕事が終われば会うことも無い相手だから。
「派遣さん」で済むのです。

「派遣さん」が二人いたって。
「そこの派遣さん」「8番に居る派遣さん」これでOK。

派遣で行ったある場所。
ここ、すごくキツかったんです。
夜でしたし。

食品を扱うところだったのですが、焼けたばかりのハンバーグを並べたり。
焼けたばかりのパンを綺麗に包んだり。

はい。
オーブンのラインに配属されてました。
手、火傷しました。

軍手を使うんですけどね。
当然、そんなものだけでは熱は防げません。
手の皮がグローブみたいに腫れ上がって、ペンももてませんでした。

そんな酷いところだったんです。
一度入ったらもう二度と入りたくないといわれた恐怖の派遣先でした。

でも、そこで働いていた正規のパートさん。
いい人でした。

初日から、きちんと名前で呼んでくれたんです。
「G******の彩紋です。今日はよろしくお願いします」
「彩紋さんね。よろしく」

一日中、きちんと「彩紋さん」て呼んでくれました。

私はそこを二ヶ月以上担当しました。

大変でした。
でも、すごく気持ちのいい職場だったんです。

名前を呼んでもらえる……些細なことですが。

とっても、嬉しいのです。

20070301 Takami Simon

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