『レプリカントマスター』レポート対談
シナリオライター:阿宮ゆかり × 舞役:春羽伺剣

本番:2006.03.04-05
対談:2007年10月28日 16:00〜17:30

春羽伺剣(以下春): お久し振りです(笑) 今日はよろしくお願いします
阿宮ゆかり(以下阿): お願いします
春: とりあえず、『レプリカントマスター(以下レプリ)』を書いたきっかけからいきましょうか
阿: 書いたきっかけ……すごく古い話だからなぁ……どっから話せば良いんだろうね
春: 何かテーマがありましたよね
阿: 一番最初に『レプリ』の原型ができたのは、大学に入ったばかり位の頃に気になった劇団があって、 見に行ったら雰囲気がとても好みで、こういう芝居を作りたいなと思ったことがチラッと。 その時はシナリオを書くとか全然考えてなくて、いつか自分もこういう芝居をやってみたいなと漠然と思ってた。 で、それとは別の時に、私の知り合いが亡くなって、その人がやりたいことをやれずに亡くなってしまった……ということがあって、 その人のことを何か形にして残しておきたい――自分の感じた疑問とか、考えたことだとか……残しておきたいなって思ったときに、 小説かシナリオの形で残しておこうかなって思って。その時に頭にあった雰囲気が、その芝居だったの。 で結局シナリオとして書き始めて、その芝居プラス似たような雰囲気の漫画とか小説とか…映画とか。 そういうものを色々ぶち込んで雰囲気をもうちょっと盛り上げてみたわけ。 すごくね、ぶち込んだものが多すぎて……どれがベースだったのか途中でわからなくなったんだけど(笑)
春: なるほど(笑) けっこうキャラの人数も多くて…でも、一人ひとりに裏設定があったんですよね?
阿: まったく本編に出てこない裏がいっぱいあって、中には勿体無いって言われるものもあるし……どうでもいいものも、多分あるんだろうけど
春: α版は役者をイメージしてキャラを作ったんですよね?β版もですか?
阿: そもそも、元々『レプリ』という作品ではなかったの。 あの作品自体、タイトルも二転三転してるし、内容もその度にちょこちょこ変わったりなんかして。 『レプリ』っていうタイトルは多分3つ目。ストーリー的には4つか5つ目くらいだと思う。 だから、元々主人公は違う人だったし、黒幕は2人いたとか3人いたとかもあるし。 オープンになった話では、亨介(以下、名称無:役/名称有:役者)が一人黒幕としているけど、元々は主人公である拓巳も黒幕の一人だったりして
春: おぉ!?
阿: (拓巳とは別に)主役がいたけど、それに相当していた役者が卒業しちゃってたので、 その人なしで、今いるメンバーでどうやろうかなっていった時に黒幕が減ったっていう……そういう流れがあったりとか
春: それで最終的に落ち着いたのが……落ち着いたという意味ではα版が一番落ち着いていたところですかね(笑)  その後β版に書き直したときに、「もうちょっとこうしたい、ああしたい」というのがあったみたいですけど……
阿: そうね……α版が結構。元々舞台でやろうと思って完成させたのはα版。その後色々弊害があって考えたときに、 なんとかかんとかまとめ上げたのがβ版(笑)
春: β版でキャラ増えましたよね
阿: 増えましたねー。元々カラミとして使う予定だった人が役者に昇格したりとかして
春: キャラの名前とかもそれで…
阿: 変わった変わった(笑)
春: キャラの役割変わったりとか性格変わったりとか、抵抗なかったですか?
阿: う〜ん……増えたキャラに関してはなかったんだけど、元々死ぬ予定だったキャラが生きてしまったりとか、 必要のないところで出しておかなきゃいけなくなったりとか……そのやりくりですごい葛藤はあった
春: 私がα版からβ版のシナリオを見た時一番びびったのは舞の豹変振りですね
阿: (笑) 舞は役者の変更が大きかった
春: そうですよね(笑) 私になったってことで、絶対イメージ違いましたもんね(笑)
阿: 元々の役者の子が、小柄でほわ〜っとした感じの子だったから…実際年齢が子どもなのか、精神的に成長していない女の子なのか…っていう感覚があった。 けど、君にそれをさせたくないって思って
春: 私は結構きつい感じですもんね
阿: 舞って役は由子との絡みが重要で、α版では“由子が可愛がってた舞”と殺されたことで由子が豹変する、 戦う決意を固めるっていうのがあったけれども、 β版では保護の対象ではなくて、“由子を宥めてくれる人間”がいなくなるっていう…… ちょっと上下関係が変わるっていうことにして、どっちにしろ由子にとっては大打撃だったっていうことにしたかった。 結局のところ、舞の存在っていうのは、由子を戦わせるための補強材料なので……
春: 由子はα版でもβ版でもキャラがあまり変わらず(笑)
阿: 変わらないです。ただ、妹分がいるか姉貴分がいるかの違いであって。 ある意味では舞がいなければ由子は成り立たないっていう役だったから、ワンセットで考えた。 だから、そこの変更はすごく難しかったけれども、思いついて「この役柄でいこう」って思ってからはスムーズだったかな。
春: 変えるまでが大変な感じですかね(笑)
阿: そう。自分で思い入れがあって作り上げたキャラだから、やっぱりそこを変更するっていうのは書いてる人間にとっては大きくて。 出来上がったものを見たら全然違和感がなくって、ほっとしたんだけど(笑)

春: 真志と建のやりとり(喧嘩のシーン)が凄かったですよね。二人とも役者なので、上手いし緊迫感もありましたし……。 あれを止めに入る私はどうしたら良いのかって、本当悩みましたけれども(笑)
阿: (笑) でもあれは必死で止めなきゃいけないっていうオーラが出てる分、それはそれでリアルだったよ(笑)
春: でかい男二人なので、「やめてよ、私が怖いじゃない!」みたいな(笑)
阿: でもあれは、いろんな意味でリアルが出てて。 由子の金切り声に対して皆が耳を押さえるシーンも、演技ではなく皆素なんだけど、それが凄くリアルで。 だから余計に由子のパニック振りも際立ったし、皆がどんだけ必死で由子を宥めてるかっていうのも見えてくるし(笑)
春: 本当に、あれは由子ちゃんの声が為せた業だなって思いました。他の人では出来なかったでしょうから
阿: あれは女の子キャラとして一番おいしかったなぁー
春: おいしいといえば、もう、誠だと思うんですけど?(笑)
阿: 一番作りこんだキャラではあったし、元々思い入れもあったし…… 『レプリ』っていう作品になる前からずっと誠っていうキャラはいたし……誠だけは潰したくないって思って。 でも、誠のエピソードを本編に入れられなくて、それがすごいつらかった
春: 折角なので誠のエピソードを少し
阿: 元々の設定として、あの空間に集められたメンバーっていうのは全員、マスターである亨介と何らかの形で接点のあった人間っていう設定があって。 皆何かしらの形で親しかった人間、ある意味亨介が気を許してた人間だった。 で、その人たちの誰かに自分の最期を見届けてほしくて、記憶を消してその空間に呼び込んだ、っていう。 ただ誠に関しては、元々亨介の幼馴染というか、ある程度幼いころからの知り合いで、家にも出入りがあって、亨介の姉である透とも面識があった。 それで、透に対して淡い恋心を抱いていたという設定があって、他の人と同じような記憶の消し方ではちょっと甘かった。 思い入れが強くて、亨介に対しては何も思わなかったんだけど、透を見た瞬間に「あれ?何か違和感があるぞ?」と思って、 「俺たち会ったことないかな?」という台詞が出てくる。 あそこは伏線が回収し切れなかったって散々芝居のアンケートでも言われたし、私もそこをきちんと見せられなかったのは……
春: 勿体無かったですよね
阿: ただ、それが却下されたっていう理由もちゃんとあって、そこで全員が知り合いだったっていう話にすると、 亨介が死んでしまうラストシーンで、拓巳に対して「最期に出会えたのがお前でよかった」っていう台詞がおかしいとなってしまって
春: 一人に限定されちゃうからですか
阿: そう。「最期に出会えた」だから、そこで初めて出会ってなきゃいけない。 ランダムに選ばれた誰かでなければならばいから、元々の知り合いだったら「お前たちに会えてよかった」って言わないといけない。 そうすると、拓巳と二人きりのシーンではなくて、全員とのシーンになっちゃう。 そうすると画が崩れるから……さぁどっちを優先するか……エピソードを優先するのか、ラストの画を優先するのかっていった時に、 私はどうしても、拓巳に「お前と会えてよかった」って言うその一言に重みを持たせたかったから、仕方ない、エピソードを削りましょうって言ってしまった。 でもそれを上手く消化できないまま、本番を迎えてしまっちゃったっていう
春: 最終的にはβ版ではそういうエピソードは表に出ないで削られてて、テーマとしては『命を感じることだ』っていうのがあって
阿: 皆が命に関して、人の死だったり自分の死だったりを見つめたことがある、っていう
春: それが加わったことで、役者のほうはキャラ作りがし易かったんじゃって感じもしますけど
阿: 本当に?
春: 「この前にこういう風な接点があったんだよ」ってなると、またちょっとキャラが変わってきちゃう部分があるので、 役作りって意味では、この方がよかったのかなって感じがします
阿: あーそうだねー。 だから、稽古を始める前に、私何人かの人に言ったんだけども、「自分のキャラに関して履歴書を書けるようになれ」って言った覚えがある
春: ああ、言われました
阿: 履歴書といわず、自分の(役の)性格だとか、どういう交友関係を築いてきたかとか……。 で、その中にどこに死と関わったことがあるのかなっていうのを、ちょっと考えてみてねって。 芝居中には出ないけれども、そういう設定があるからねっていうのを伝えた覚えがある。
春: 散々由子ちゃんと話しましたね。「こうだよねー」「こうかなー」みたいな。二人でキャラ作りしながら
阿: 全員、何かきっかけがあって自殺を試みことがあったりとか、身近な人が亡くなって考えたことがあったりとか。 似たり寄ったりにはなっちゃうのかもしれないけど、でも、それぞれの思い入れって絶対違うはずだから、それは構わないよって
春: そこに関しては凄く悩んでた役者さんがいましたね。 私たち(阿宮さん、由子ちゃん、私など)は心理学科なので、「そういうのを考えたことはあるだろう」って思ってたんですけど、 そうじゃない人は「いや、そんな難しいこと考えられない」みたいなことを言っていた人がいました
阿: あはは(笑) 某最初に死んじゃう人ですか?
春: その人もですけど、もう一人くらい……名前は出しませんが(笑) 「折角だから考えてみれば?」みたいな
阿: あの話は結構重めに作っちゃったから、そういうのをあまり突き詰めて考えない人にとっては、ちょっと重いテーマだったのかな?って
春: でも、某役者さんの知り合いとかは、今だに「映像見て泣く」って言ってましたね
阿: (驚) ありがたいねー
春: 本番の舞台のときにも泣いたらしいんですけど、あとから「映像も欲しい」って言われたので渡したんですよ。 そしたら、「いやぁ〜泣くわ。泣くわ」って散々言ってました
阿: 別のアンケートにも確か「ラストの、拓巳が『終わらせたいんじゃない。お前に後悔してほしくないだけだ!』って、その瞬間に泣きそうになりました」って書いてくれた人がいて、 「その感想が欲しかった、その感想のためだけにこのシーンを作ってきた」っていうのがあって。 そのシーンに感動するためには、それまでの布石が生きてこなきゃいけなくて…… どんな思いで皆が追い詰めてきたかっていうのがあって。 そのアンケートが凄く印象に残ってる

春: もっと作りこみたいとか、もっと練習させたかったっていう立ち回りとか場面ってありましたか?
阿: 今となってはもう、その完成形を見ちゃってるから、場面としてっていうのは特にないんだよね。 立ち回りはきっと皆、それぞれ思い入れがあっただろうから完成度という意味では、皆やりたいところもあっただろうし。 特に一年生とかは、全員ピン立ちをやらせて、中には自分で作った子もいたし……特に誠君なんかはそうだね。 “誠vs建”は、誠君が建君に作ってもらおうとしたらしいのだけど、建君が誠君に「好きなもの作っていいよ」って
春: (笑)
阿: 「アドバイスするから」って言って、一年生に作らせたらしいのね。 それで今だに「苦労したんだよ」って恨み言を言われるんだけども……
春: でも、誠君はそれが力になったと思いますね
阿: うん。誠君はそれで作る能力っていうのがすごい高まったと思うし……私はあの立ち回り自体すごく見てて好きだし
春: 長めの立ち回りですけど、あそこは見せ場ですし、それが栄えますよね
阿: 誠と建の意見のやり取りの中での立ち回りっていう雰囲気がすごく出てて……その必死さというか、一年生なりの必死さもあったりね。 それがすごくリアルだったし、誠はよく頑張ってくれたな、って思って
春: 2回目の舞台で立ち回りを作るっていうのはすごい大変だったんじゃないかなーと思うんですけど
阿: 素人に毛が生えた程度のもので、そっから自分の役を作って、立ち回りを作ってっていうところまで入れちゃったわけだから、すごく無理強いしたのはわかってて
春: でもそれが、すごいレベルアップに繋がって……最終的に一年生の実力の底上げにもありましたよね

春: まぁ、色々あった舞台ですけども……やって良かった舞台でしたね
阿: そうだねー。当時は二度とやらないって思ったし、出来ることなら今すぐ逃げたいって思ったし……。 でも、それをやっちゃったら、役者だけじゃないし……音響も照明もいて、小屋の専属さんもいて。 実は演劇フィスティバルの関係者もいっぱいいて、自分一人がぬけてすむ問題ではないっていうのをすごく実感してたし。 そういう意味ではすごく重かった
春: でもやり遂げて、充実感の溢れる最後に……今ではもう笑って話せるようになって。あれからもう一年半年?
阿: もうすぐ二年経っちゃうね。最初の半年間はもうずっと 「つらかった、つらかった」としか言えなかったけど、見直してようやく進めた感じがする。終われた感じがする。
春: では……次の舞台を楽しみに(笑)
阿: えー(笑) 作るの、私?
春: 完全版を(笑)
阿: 完全版はいつか書き上げてみたいなぁって思って。 どんな形になるかわからないけど……誰に重点が置かれるかもまだわからないし。 でも、書いてあげたいエピソードはいくつかあるので。 そこを含めた上で、他の人のも想像してよ、というのが出来たらいいなぁ
春: じゃぁ、その辺を楽しみにして……ここでゲーム化を待ち構えているのがおりますので(笑)
阿: 出来上がったら連絡させていただきます(笑)
春:大分時間が……全部で1時間超えるので。語れる話になったので(笑) 最後になんか、レプリに関して思い入れとか、一言で表すとどんな舞台でした?
阿: 自分もそうだけど、周りに対して色んな可能性を提示できた舞台だった気はするなぁ。 辛いところも面白いところも全部ひっくるめて、「舞台ってこんなことが出来るんだ」「シナリオ書くってこんなことが出来るんだ」 っていうのを実感させられた舞台だったかな
春: 可能性を広げた舞台ってことですね
阿: 「今まで見てきた舞台だとか映画だとか、色んな物をひっくるめて自分の中で消化したらこんな形になりました」 「こんな可能性があったんだな」っていうのを見せた一つの形かなって。
春: ありがとうございました。本当はもっと突っ込みたいこともあるのですが、諸々の事情があるので、これで終わりにさせていただきます。 また何かありましたら宜しくお願いします。
阿: はい。よろしくおねがいします。

【了】

※行数の都合上、大幅に内容をカットした部分があることをお詫び申し上げます

ゲスト:阿宮ゆかりさん。
ゲーム『Replicant Master』の原作執筆者で、春羽の先輩。
『レプリカントマスター』の舞台の総監督も務められました。
小説の執筆活動もされています。

ゆかりさん、お忙しい中ありがとうございました!

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