貴方に(by:彩紋任伺)

 

拝啓。

お元気ですか?
私は元気じゃありません。
元気なら、貴方と会って、話をしているでしょう。

貴方と暫く離れているうちに
貴方の顔が思い出せなくなりました。
貴方の写真さえ、別人のようです。

貴方の手首から生えている二本の毛とか
貴方の右手の親指の爪がちょっと反っていることとか
貴方が笑う時の口角の上がり具合とか

そんなどうでもいいことは沢山覚えているのに
肝心の貴方の姿だけが全く思い出せないのです
貴方の顔を思い描くことが出来ないのです

貴方の持っている鞄も
貴方の着ていた洋服も
貴方の履いていた靴も

こんなに鮮明に覚えているというのに
こんなに鮮やかに再現できるというのに
こんなに…

次会う時に、私は貴方を忘れているかもしれません。

だから、どうか貴方から声を掛けてください。
私は慌てて、忘れていなかった振りをして、
ちょっとしたままごとに興じることが出来るでしょう…

いつものように

敬具

 

(コメント)
ふと、とある人を思い出して書いてみました。
元気してるかなー。
しかし…最後に会ったのって…いつだ…?(汗)

戻る





(C)Copyright, All Rights Reserved, Ishindenshin, 2003-