拝啓。
お元気ですか?
私は元気じゃありません。
元気なら、貴方と会って、話をしているでしょう。
貴方と暫く離れているうちに
貴方の顔が思い出せなくなりました。
貴方の写真さえ、別人のようです。
貴方の手首から生えている二本の毛とか
貴方の右手の親指の爪がちょっと反っていることとか
貴方が笑う時の口角の上がり具合とか
そんなどうでもいいことは沢山覚えているのに
肝心の貴方の姿だけが全く思い出せないのです
貴方の顔を思い描くことが出来ないのです
貴方の持っている鞄も
貴方の着ていた洋服も
貴方の履いていた靴も
こんなに鮮明に覚えているというのに
こんなに鮮やかに再現できるというのに
こんなに…
次会う時に、私は貴方を忘れているかもしれません。
だから、どうか貴方から声を掛けてください。
私は慌てて、忘れていなかった振りをして、
ちょっとしたままごとに興じることが出来るでしょう…
いつものように
敬具
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