硝子の記憶(by:彩紋任伺)

 

私は、たまに考える
私の存在は、私が生きているうちから無きに等しいのではないか、と。
私は、私の全てをとどめていられない。
私自身の記憶も、曖昧になっていく。
すこし切なくて。
すこし淋しくて。
でも、それが当たり前の世の中だから、いつも意識してはいられない。
(ソンナコトシタラ私ハ壊レテシマウ)

たまに、夜空を見上げながら、
私たちにとっては無限に近しい有限の星明りを眺めながら、
私ではないほかの誰かが
私の代わりに、私の全てを記憶してくれることを望む。
しかし、その「誰か」でさえ、自身のことは完全には記憶できない。
そもそも、私しか知りえない私自身の記憶を、どうして他の誰かが知りえようか。

……でも、大丈夫。
心配しなくてもいい、心配することなんて何もない。
なぜなら、私(君)の忘れてしまった記憶の全ても、
僕が引き継いで、覚えているから。
私(君)が僕とひとつに戻るとき、
私(君)はすべてを、取り戻す。
だから。

今ハ只其処ニ確カニ存在シテ居ル、
透明デ不可視ノ記憶ニ煩ワサレナイデ。

 

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