見えないで霧は上の塔(by:彩紋任伺)

長くて暗くて湿った道を
貴方と二人で静かに歩く
貴方はまるで見えているかのように
閉ざされた道をまっすぐ歩く
私は貴方の背中を見つめ
触れられない背中に手を伸ばす
せめてその暖かさを指先に感じられたなら
私にもこの道が見えるかもしれないのに
少しは
でも不思議と怖くないのは
貴方が先を歩いているからで
私が一人で歩いているのなら
きっと塔までたどり着けないでしょう
貴方が私くらいの年に歩きたかったこの道を
貴方ははるかに過ぎた後で
私とともに歩いている
同じ道を歩いていながら
二人のいる場所は遠く離れて
だから私は貴方に触れず
触れることは許されず
貴方も私が貴方の後ろを歩いているとは知らないで
ただ一人きり暗い道を自分を信じて歩いている

不意に現れる古い塔
その中にあるものはわかっている
けれどそこにたどり着くことが
ほんの一握りの人にしか出来ない
貴方は静かに扉を開けて迷わず塔の中へと進んでいく
私はというと怯えながら塔の頂上を探るばかり
深い霧に遮られてほとんど見えないその塔は
まるで意志の弱いものを入り口で拒むかのごとく
その扉は開いているのに無限の闇が体を押し戻す
しかしあの人は行ってしまう
だから私も追いかける
頂上で得られるものは二人とも違うから
一緒に行っても喧嘩にならないでしょう?
思い切って飛び込んだ闇は私の体を包み込み
そこで何も見えなくなった
道どころかあの人の背中も
ここであきらめたらもう二度と会えない
ようやく霧の中で見つけた背中に
再びおいていかれてしまうなんて
再びこの闇の中で一人になるなんて
私は瞳を凝らしてみる
そんなのは我慢できないから
かすかに暖かい何かが触れる
私の指先にあの人の指先
繋がれた手は確かな実感
二人の世界が交差する

ただ、先はますます見えなくなった。

 

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